
上着はポロシャツ、下は作業ズボンという出で立ちのその女性は、自分のことをガス給湯器のメンテナンス業者だと名乗った。
「遅くにすいません。ガス給湯器のメンテナンスについてご説明に伺いました。少しお時間よろしいでしょうか?」
そうハキハキとした口調で話す彼女にオレは、まだ若いのにきちんとした対応をする女性だなと、好印象を持った。
「あー 遅くにお疲れ様」
そんな労いの言葉をかけることも忘れない、Mr紳士のオレは彼女の説明を受けるため外に出ようとした。すると彼女が、
「あ、ガス機器のことですので、普段使われることの多い奥様もおられた方が良いと思います」
と言い、奥さんを呼ぶことを要求してきた。ここで、
「いやー こう見えて案外、料理とかするんですよ?ボク」
とか言って、好感度アップを狙おうかと思ったのだが、話しが盛り上がって料理談義に花が咲く、なんてことになると実は料理なんて全然できないことが一瞬でばれてしまうので止めといた。
「おーい ガス機器の説明するらしいぞー」
オレは奥さんを呼んだが、何故か反応が鈍い。
あきらかにめんどくさがっている。
おいおい。そこは直ぐに来てくれよ。
なんかオレが、家庭内での発言権0カロリーの可哀想な旦那みたいじゃない。
ガス屋の彼女が、
「あー この人、家庭内での立場って弱そうだわぁ たぶん、もう一回呼んで、「うっさい!何度も呼ばんでも聞こえとるわ!今、ドラマがイイとこやねん!もう少し待っとけ、ボケェ!」とか言われちゃうんだわぁ」
とか思うかも知れんだろーが。
そんな心配をしているのが伝わったのか、奥さんは外に出てきた。
めんどくさそうに。
とにかく、二人揃ったところで、ガス屋の彼女は給湯器のメンテナンスのやり方を説明しだした。
説明は結構ながく、なんかすごくめんどくさいものだったが、オレは我慢してまじめに説明を聞いた。
オレがやる気を出しているのが嬉しかったのか、彼女の説明もだんだん熱を帯びてくる。
説明する彼女は真剣そのものだ。
そこには、ガス給湯器を大事に使用して少しでも長く使って貰いたいと言う、メンテナンス業者としての良識が感じられた。
だからオレは途中で寝てしまいそうになりながらも、頑張って話を聞いた。
ふと奥さんの方を見ると、あさっての方向を向いてやがる!
オイ、コラ!
この娘さんがこんな時間にわざわざ説明をしに来てくれてるんじゃねーか。
ちゃんと聞け!
オレがそう言うと、やっとめんどくさそうにではあるが、説明を聞き出す相方。
まったく、少しはこの娘さんの姿勢を見習って欲しいものだ。ブツブツ
そんなこんなで、説明は終わった。
一通りの説明をした後、これを1ヶ月に1回してくれと彼女は言った。
正直、うんざりした速攻で、「無理」とか言いそうになった。←真摯な姿勢はどうした
そこで彼女はオレの気持ちを知ってか知らずか、メンテナンスを怠ると壊れますよ〜とか、すごく当たり前のことを言った。
オレの方を見ながら。
なに?なんでオレを見るの?
オレ、さっきまで真面目に聞いてたやん。
確かに、少しだけ「まんどくせー」とか思っちゃったけどさー
とか思っているオレをよそに、さらに話を続けます。
「給湯器壊れると幾らするかしってます?」
と言って、給湯器のカタログを見せてきた。
カタログには給湯器1台、
40万とか書いてあった。
は? 40万円?
オレは給湯器については無頼漢ではあるが、さすがにそれはぼったくり過ぎだろと思った。
だって、システムバスとかでも安いのだったら60万とかで買えるだろ?
なんで、給湯器だけで40万とかするんだよ?
どんだけ豪勢な給湯器だよ。
ここらで雲行きが怪しくなる。
さっきまでにこやかに説明をしていた彼女の顔が、勝負師のそれとなったような気がした。
彼女は一気に攻勢に出た。
「どうです〜 高いでしょ〜 とてもこんな金額払えませんよね〜」
ここで、「それってうちが貧乏ってことかい!」とツッコミたかったが、実際そうなので黙っておいた。
ここが勝負どころらしく、彼女のセールストークはなおも続く。
「そこで、良い商品があるんですよ、旦那!じゃーん!」
と言う、安っぽい効果音で登場したのは・・・
アルカリ水生成器!なんでも水道管にくっつけるだけで、水道水が良質のアルカリ水になるんだって!
それさえ付ければ、給湯器のメンテナンスとかしなくてもいいんだって!
家全体の水が綺麗なるから、シャワーや洗濯機の水もすごいことになって、洗濯物の汚れ落ちもすごく良くなるんだって!
すごい!
これすごい!
買いでしょ!
絶対、買いでしょ!
と、力説する彼女。
真剣。ある意味、さっきの説明よりもかなり真剣。
さすがにその頃までにはオレも気づいていて、いかに早くこの話を終わらせるかどうかだけを考えていました。
その素晴らしい効果とやらが得られる機械(らしきもの)の説明が一通り終わり、いよいよ大詰めとばかりに、
「どうですか?今なら月々少額でリースもできますが・・・」
と彼女が言い出したと同時に、それまで話を聞いてるのか聞いてないのか解らないようだったうちの相方が放った一言がこれ。
「あ、いりません」ちょ!
直球!
その「あ」っていうのがまたいいタメになってる!
全盛期の野茂なみの直球で話を終わらせるうちの相方。
その迫力に憶したか、あっさり引き下がって帰っていく業者女。
しかし、まさかあんな若いねーちゃんが悪徳業者とはねぇ
世の中恐いねぇ
とオレがぼやいていると、相方が一言。
「始めっからおもいっきり怪しかったわ。もしかして信じてたんかい?どーりで、やたら真面目に話を聞いてるなーと思ったら・・・」
あ、いや・・・
おばあちゃんに遺言で「人は疑っちゃいかん」って言われたもんでして・・・
こうして一家の主としての権威ってやつは失墜していくものなんですね。
なんか長々と書いたわりにこんなオチで申し訳ないです。
久しぶりに、書いてて途中でイヤになった^^;
ちなみに後半の会話は大幅にディフォルメしてあります。